なめこのみそ汁とやらをすすりながら、カイトは時々彼女を見た。

 朝っぱらから、自分を不安に陥れるようなことを考えて自爆したせいで、何度も何度もメイの存在を確認してしまうのだ。

 本当は、聞きたいこともある。

『この家にいるのは、いやか?』と。

 けれども、それを聞いてしまって―― もしも、本心がカイトの願いと食い違っていたなら、自分は耐えられないに違いない。

 だから、目をそらすのだ。

 食事に集中している素振りで、頭の中の暗い雲を追い払おうとする。

「今日は…雨が降りそうですけど」

 心配そうな声をかけられて、カイトは箸を止めた。

 視線を上げると、窓の外がどよんと曇っているのが分かる。

 本当に降って来そうだ。

 きっと、彼女はバイクのカイトのことを思ってくれているのだろう。

 もう一台の車の車検はもう終わっていた。

 普通なら、ハルコが昼間にここにいるはずなので、持ってきてもらうように指示が出せるのだが、いまは整備工場に待機中である。

 ハルコがいつ来るか分からない状態だからだ。

 今度の土曜日、カイトがいる時に持ってきてもらう予定だった。

 メイがいるのだから、あらかじめ言っておけば受け取りくらいは出来るはずなのだが、カイトはそれをしたくなかった。

 仕事を頼むのがイヤだったのもあるのだが―― 知らない男と彼女が会う方が、もっとイヤだった。

 だから、今度の土曜日になったのだ。

 今週いっぱいは、バイクで通勤しなければならない。

「別に、関係ねぇ」

 彼女に心配をかけるまいと、カイトはそう答えた。

 レインジャケットはある。

 第一、背広が濡れることを、彼が気にしたりするはずもなかった。

 濡れようが汚れようが、知ったことではない。
 汚れてはいけない服など、作る方が悪いのだ。

「そう…ですか」

 言いながらも、メイは心配そうに外の天気を見ている。

 カイトは『心配すんな!』という怒鳴りも込めて、強い音を立てて箸を置くと立ち上がった。

 食べ終わったのである。

 はっと彼女も立ち上がって近づいてくる。


 白い指が、彼の襟元と心を縛りにきたのだ。