入ってくんな!

 彼の希望は、本当にそれだけだった。

 自分が思っている以上に、カイトは彼女のことを大切に思っていた。

 使用人扱いされて、あんなにキレたのが何よりの証拠である。

 メイもそのことを気にしているのではないかと、キレが冷えてきた時に心配になった。

 その時、彼女は目の前にいた。

 苦手そうな素振りを隠すようにしてコーヒーに付き合いながら、カイトの目の前に座っていたのである。

「おめーは…」

 だからカイトは言いかけた。

 メイは、はっと顔を上げる。

 言いたかったのは―― 「おめーは、使用人なんかじゃねぇ」

 しかし、それを言うことが出来なかった。

 何故なら、その後に来るだろうと予想される質問に、答えることが出来なかったからだ。

『じゃあ、私は何なんです?』

 その質問に、どうしてスラスラと答えられよう。

 カイトは、答えを持っていなかったのだ。

 それが、苦しくて悔しかった。

 アオイに使用人扱いされた時。

『こいつは使用人なんかじゃねぇ! こいつは…!』

 そう怒鳴ってやりたかった。

 けれども、その『こいつは…』の後の言葉が、一文字も自分の中になかったのに呆然として、それがキレを増幅させてしまったのだ。

 メイは、誰のものでも、そうして何者でもなかったのである。

 彼自身が、そんな立場に置いているのだ。

 じゃあ、どんな立場がつけられるってんだ!

 せめぎ合うのは、一般常識の槍と「いやだ!」で作られているわがままの砦。

 メイは成人女性で、保護している必要はない―― イヤだ。

 借金のカタに身柄を拘束しているのなら、しょうがない―― そうじゃねぇ!

 家政婦として恩返しがしたいというのなら、そうさせても何も問題はないはず―― イヤだっつってんだろ!

 という有様なので、この戦いに決着が来るハズがなかった。