一秒待つ。

 二秒、三秒、四秒、五秒。

 でも、その先は続けられなかった。

 彼は、ばっと顔から手を離して立ち上がる。

「…何でもねぇ!」

 言い捨てながら、その身体はバスルームの方へと消えて行った。

 要するに、もう彼女と話をすることはないというのだ。

 え?

 いきなり放り出され、一人きりにされてしまったメイは、バタンと閉められたドアを見た。

 最初の数日、一緒の部屋で過ごしたことを、彼女は忘れていない。

 けれども、あの時といま違うのは、彼がお風呂から出てくるまでここにいてはいけないということだ。

 もう、メイがずっといられる部屋ではないのだから。

 何を…言いたかったのかしら。

 後ろ髪がひかれる。

 空になったコーヒーカップが乗るトレイを持ちながら、何度も彼女は後ろを振り返って―― でも、出ていかなければならなかった。