多分、カイトのだろう。

 彼の時計をマジマジと見る機会はなかったが、アナログなのは意外だった。

 もっと高機能の、デジタル時計のイメージがあったからだ。

 どきっ。

 カイトの手首に、この銀時計がはめられているところを想像すると、胸が高鳴る。

 やだ。

 ちょっと熱くなった自分の頬を押さえながら、時計を救出する。

 明日の朝まで預かろうと思ったのだ。

 シンク周りの水たまりを台拭きでふき取ってから、メイはまた一つずつ電気を消しながら部屋へ戻り始めた。

 廊下に出る。

 階段を昇る。

 二階の廊下を歩く。

 自分の部屋のドアを――

 ガチャッ。

 メイは、その音に動きを止めた。

 ちょうど、手をドアにかけてはいるけれども、まだ開けてはいない。

 だからその音は、彼女の部屋のドアではなかった。

 えっと顎を横に動かすと、頭にタオルをひっかぶったままの身体が出てきたところだった。

 ドキーン!

 まさか、もう今日は会えないだろうと思っていた相手だっただけに、驚きに心臓が跳ね上がった。

「あっ…」

 何を言おうと思ったワケではない。

 慌てた心が、その声を飛び出させてしまったのだ。

 階段の方に行きかけたカイトの身体が止まる。

 そうして、振り返った。

 驚きの、顔。

「あっ、あのっ…その…」

 メイは慌てた。

 彼を待って起きていたワケではないのだと、いますぐにここで言い訳をしておかないと、怒られそうな気がしたのである。

 その時、いま自分の手の中に時計を持っていることを思い出した。

 これを渡して、カイトの注意の方向を変えようと思ったのだ。