カイトは慌てて立ち上がり、何事もなかったかのようにもう一度椅子に座った。

 メイがドアを開けたのは、その行動が終わった次の時で。

 非常にみっともないところを、見られずに済んだ。

 しかし、カイトのプライド本体は、まざまざといまの失態を見ていて。
 心の中で、何人かの自分がケンカを始めたのが分かった。

 チャンチャンバラバラと火花が散る。

 それを押し殺した表情は、どうしても険しくなって。

 何事もなかったように振る舞いたかったけれども、出来そうになかった。

 メイは、一歩部屋に入ったところで止まった。

 そして、彼の方を見る。

 服はきちんと着替えてあった。あの白いワンピースだ。

 一番最初に、カイトを撃ち抜いた服。

「あの…」

 不安そうな目だった。

 もしかしたら、カイトが怒っていると思ってるのかもしれない。

 いや、あの件に関しては怒っていた。
 それは間違いない。

 しかし、怒っているからと言って、それをずっと引きずりたくはなかった。

 洋服一つのくだらない出来事だ。

 彼にとっては大きな衝撃であったが、一般論から見たら、本当にくだらない出来事だったのである。

 そんなことを、引きずっていると思われるのはイヤだった。

 メイが、自分についてイヤな評価を下すかと思うと、そっちの方が腹が立った。

「何だ?」

 すっと横に目をそらしながら聞く。

 ちゃんと見るには目つきが悪いだろうし、さっきの記憶がまだ彼を苦しめているのも確かだった。

 まともに顔を見られそうにない。

「あの…朝から何も召し上がられてませんよね? 夕食作りましょうか?」

 言葉がすごく遠慮がちなのは、やっぱりあの事件のせいだろう。

 いつもならもう勝手に作っているに違いないのに、ワザワザ許可を取ってくるのだ。