「う、うそ…」

 メイは、一生懸命まばたきをした。

 ガスの上にあったはずのカレー鍋は、流しの横においてあった。

 その周囲には、乾き切れていない水たまりがいくつも。

 皿も。スプーンも。

 きっちり、1つずつが置いてあった。

 昨日洗ったお皿なら、拭いて食器棚に戻したはずなのに。

 どうして、そんなところに。

 呆然としながらも、彼女はカレー鍋のフタを開けて中を覗き込む。

 からっぽだった。

 いや、乾き切れていない水だけが、底の方にちょっとたまっている。

 洗った後に、水気をきちんと切ってないからだ。

 元々、その鍋には何が入っていたかも、いまでは推理できな――いや、出来た。

 鍋の縁に焦げてこびりついていたカレーの一部が、そのまま付着していたのだ。

 それをじっと見てしまう。

 次に、お皿とスプーンを見る。

 お皿を持ち上げる。

 洗ってある――が、皿を裏返した時に、そこにも薄い黄色が残っていた。
 綺麗に洗ってあったのは、結局スプーンだけだったのだ。

 これって。

 頭の中で、いろんな推理がかけめぐっていく。

 もしかして。

 空想のパズルが出来上がっていく。

 1カットずつ切り替わる画面が、少しずつなめらかに頭の中でムービーになっていく。

 その主人公は。

「う…うそ……」

 言いながら、メイは目が笑ってしまった。頬も。唇も。

 こらえきれなかったのである。

 身体の内側から一斉に、彼女を喜ばせようとするのだ。

 何もかもが。

 そこにあるものの、何もかもが――カイトだったのである。