ブンッと、カイトは頭を振った。

 とりあえず風呂に直行する。

 これから、社員がサーバに入れている新しいルーチンを見るのだ。
 やりだすと、すぐに数時間がたつのは分かり切っていた。

 今のうちに風呂に入っておこうと思ったのだ。

 大体がシャワーで済ますのだが、今日は気まぐれに湯を張った。

 今夜は長いし、明日は休みなのだ。

 要するに、カイトはたくさんの時間を持たされていたのである。

 湯がたまるまで、部屋に戻って、データのダウンロードをすませた。

 ついでに、いろいろとダウンロードする。

 日曜日までの溢れるほどの時間を、カイトはこういうことで消化するしか出来ないのだ。

 バイクで出かけてもいいのだが――そういう気にはなれなかった。

 そうしているうちに湯はたまり、カイトはノートパソをそのままに風呂場に入った。

 何はとりあえず、風呂にざばっとつかる。
 ふぅ、と腹の底から息を吐く。

 しばらくぶりの湯船だった。

 こんな、風呂につかっている以外にすることがないぼんやりとした時間は、かなり危険なものだった。

 いろんなことを思い出してしまうからだ。

 特に。

 慌ててその思考を止める。

 危なく、また彼女のことを考えてしまいそうになったのだ。

 どうして、意識を占める割合が高くなってしまったのか。

 仕事に集中している時には大丈夫なのだが、ちょっとでも隙間があるとすぐに。

 ったく。

 湯から上げた手で、頭をガシガシとかく。

 色ボケしてんじゃねぇ、と自分を叱咤するが、居座っている彼女への思いは、絶対に立ち退こうとはしない。

 どんな地上げ屋の攻勢にも、刃向かうつもりだ。

 そんな時。

 ふっと。

 本当に、ふっとカイトは視線を水面に向けた。

 ドキッ。

 一瞬、自分の心臓が鷲掴みにされたのに気づいた。