●72
 準備万端。

 メイは、おみそ汁の鍋をダイニングの保温プレートに運んだ。

 ご飯も炊きあがったし、塩鮭は焼くだけ。
 これは、彼を起こしにいった後だって間に合うハズだ。

 昨日ハルコが、彼女の希望商品を買いに行ってくれたおかげだ。

 こういう生活費は、許可なく使っていいのよ、とウィンクしながら。

 おかげで、肉じゃがも作れたのである。

 あとはおつけ物が欲しいけれども――それは、おいおい増やしていこう。

 すっかり和風な朝食の準備が出来て、メイは時計を見た。

 7時45分。

 昨日起こした時間よりも、10分早い。

 怒られないかな。

 それだけが、彼女の心配だった。

 朝起きるのが苦手とか嫌いな人がいる。
 10分あったら、食べるより寝るという人がいるのを、メイは知っていたのだ。

 学生時代、大体の男の子はそうだったし、女の子にも結構いた。

 でも、遅れるより。

 怒られるのは、とっくの昔から覚悟している。

 予定では、昨日既に玉砕するハズだったのだ。

 けれども、カイトは朝食を食べてくれた。

 朝食のために、バイク通勤にまで変えてくれたのである。

 怒鳴っても優しい人。

 彼への評価はそれだった。

 自分の中の、『好き』とも絡むものはあるけれども、その気持ちが芽生えなかったとしても、きっと彼女はカイトを尊敬する意味で好きになっていただろう。

 普通は、こんな『女』な気持ちを覚えてはいけない相手だった。

 でも、仕方がない。

 メイは、ダイニングを出ながらカイトを思い出した。

 見るもののどれもこれも、好きを上塗りしていくだけなのだ。