え?

 慌てて顔を上げる。

 カイトは、肉じゃがに箸をつけていたのだ。

 そうして、一呼吸置いて口に運ぶのである。

「あ、そんな無理して食べないで下さい!」

 驚いて、彼を止めようとした。

 きっと作った彼女に悪いと思って、カイトは無理をしているのだ。

 おいしくないのに、我慢して食べようとしてくれているのである―― そうメイは思った。

 なのに、無言でカイトは今度はご飯を口に突っ込む。

 ご飯で流し込もうとしているように見えて、ますますハラハラした。

 確かにおいしいと思ってもらえなかったことは悲しいけれども、決してそれは、我慢して食べて欲しいワケではないのだ。

 けれども、カイトは食べる手を止めない。

 自分の料理に手もつけられないまま、そんな彼を呆然と見ていた。

 どうしたらいいのか分からなかった。

 信じられなかった。

 カイトは、空にした肉じゃがの器を持って立ち上がると、おかわりをしようとしたのである。

「どうして…?」

 メイは椅子に座ったまま、彼を見上げた。

 もうワケが分からない。最初にあんな表情をするような味に感じたハズなのに、どうしておかわりまでするのか。

「肉じゃが…おいしくないんですよね?」

 自分で言いながら、目頭が熱くなった。

 こんな料理の失敗くらいで泣いていたら、キリがない。

 でも、心は沈むばかりで。

 今すぐに、その気持ちを浮上させることは出来なかった。

 なのにカイトは、ムッとしたような眉になる。

「誰が、まずいっつった」

 物凄く不機嫌な声だ。

 やっぱり、おいしくなかったんだ。

 メイが、そう思ってしまうくらい。