しかし―― カイトは、ジャガイモを口に入れるやいなや、すごい顰めっ面になった。

 驚きというか、どちらかというと耐えられない驚きという顔。

 目を白黒させている。

 慌ててコップの水を口の中に流し込んだ。

 そのすごい勢い。

 ウ…ソ。

 とてもじゃないけれども、おいしい料理に対する態度じゃなかった。

 目の前が真っ暗になる。
 そんなにとんでもない味付けなのかと、胸が冷たくなった。

 ウソ、ウソ。

 メイは慌てた箸の動きで、肉じゃがに手をつけた。

 塩と砂糖を間違えてはいないハズだ。
 ちゃんと味見もしたのである。

 保温中に何かあったのかと、メイは肉の破片を口の中に入れた。

「……」

 絶句した。

 まばたきをする。

 何故なら、肉じゃがは―― 味見した通りの味だったのだ。

 本当に普通の肉じゃがの味がしたのである。

 普通の人が、過剰反応するようなものじゃなく、それはハルコにも確認してもらった。

 なのに、カイトの口には合わなかったのだ。

 ウソ…。

 彼の味の好みは知らない。

 けれども、嫌いなものと好きなものは、軽くハルコが教えてくれた。
 嫌いなものは、何も入れていないハズである。

 メイは、どん底に沈んだ。

 カイトのためにと思っているのに、全然そうならないのである。

 箸を置いた。

「す、すみません…」

 声が沈む。顔もうつむいてしまう。

 自分が唯一出来ることと思っていたことが、足元からひっくり返されてしまったのだ。

 つらくてたまらなくなった。

 しかし。

 うつむいたメイの向かいで、箸と陶器の乱暴にぶつかる音が始まった。

 それは、途切れる様子はない。