けれども、ここでおとなしく落ち込んでいるワケにはいかない。

 カイトに食事をして欲しいし、落ち込むくらいなら最初から作るな、と言われたら――それは、イヤだったのだ。

「すぐよそいますね」

 気を取り直して、フタを脇に置くと支度を始める。

 肉じゃがの匂いのついた湯気が、あったかく部屋に回っていくのが分かった。

 この匂いが、彼の食欲をそそっていますようにと祈りながら、肉じゃがをたっぷりとお皿によそった。

 それから、炊き立てのご飯。

 途端。

 洋館は、一瞬にして茶の間になった。

 あ。

 メイは、この何とも言えない違和感のある光景に、恥ずかしくなった。

 こんなにオシャレな家なのに、ダイニングのテーブルの上は―― けれども、彼女の得意料理はどちらかというと、こういう系列なのである。

 心配になってカイトを見た。

 こんな洋館を手に入れるような人だ。
 もしかしたら、洋風が趣味の人なのかもしれない。

 そうだったら。

 もっと心配になっていく。

 ジロッ。

 料理を彼の前に置いたはいいけれども、立ち去ろうとしないメイに、睨みが飛んでくる。

 慌てて自分の席に戻った。

 彼女も、よそって食べる準備をしないと、また怒られてしまうのだろう。

 よそいながらも、心配は拭えずにチラチラとカイトの方を見てしまう。

 別に態度が変わった様子はない。

 ただ、じっと肉じゃがを見ていた。

「あの…どうぞ」

 自分の分の支度が済むや、メイは『食べて』という懇願の目で彼を見た。

 食べて、そして朝のように『うめーよ』と、どんな口調でも表情でもいいから言って欲しかったのだ。

 本当であろうと、そうでなかろうと。

 無言でカイトは、じゃがいもの塊を口の中に突っ込んだ。

 メイは、全身で構えてしまった。

 彼の一挙一動が心配だったのだ。

 どんな反応が出るか、心配と緊張が最高潮に達する。