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 メイは、まだ動揺から立ち直っていなかった。

 そんな状況の時に、カイトがダイニングに現れたのである。

 黒いトレーナーにジーンズ姿だ。

 思えば、私服らしい私服を見るのは、これが始めてだった。

 こんな格好もするんだ――当たり前の話だが、不思議に思ってしまう。

 いつもと、またかなり印象が違っていた。

 こうしていると、会社の社長であるとかいうことを忘れてしまいそうになる。
 普通の同世代の男の人にしか見えないのだ。

 カイトは黙って席について。

 見とれていたメイは、慌てて保温プレートの上の鍋を開けようとした。

「あつっ…!」

 慌てすぎた。

 蓋の裏側の熱い水滴が、ぱっともう片方の手に散ったのだ。

 反射的に声をあげてしまった。

 ガタッ!

 声とほぼ同時に、カイトは椅子から立ち上がり、向かいのメイの方へと身を乗り出す。

 その勢いに、彼女はビックリしてしまった。

「あ、すみません…大丈夫です。ちょっと飛んだだけで」

 メイは、慌ててフタを持ったまま弁解した。

 事実、大したことはなかった。

 ただ、熱い水滴が何滴か手に落ちただけである。
 フタも落としたりしなかったし、ヤケドなんて大げさなものは何もなかった。

 一瞬、叱られるかと思った。

 元々やらなくてもいい、と言われているようなことをしているのだ。

 それなのに、こんなソコツな真似をしてしまって。

 また、作るなと言われるんじゃないかと思って心配になった。

「あの…ホントに全然…」

 立ち上がっていたカイトは、彼女の言葉にぎゅっと口をつぐむと、ドスンとまた椅子に戻った。

 すごくイヤそうな顔を横にそむけた。

 唇も眉間も歪んで、いつもと違う影になっている。

 きっとイラついたのよね。

 そうよね。

 ドンくさい自分に、メイは落ち込みそうになる。