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 トントン。

 ノックだ。

 カイトは、ギロッとドアを睨み付けた。
 誰が来たかなんて、簡単に想像出来たからだ。

 玄関に置き去りにしてきたハルコに決まっている。

 話とやらを口実に、わざわざ彼の部屋に来たに違いない。

 そう口実に、だ。

 どうせ、彼を笑いに来たに違いない。

 あの夫婦は、調子の狂っているカイトを、更におかしくしようと思ってるのだ。

 おめーらに構ってるヒマぁ、ねーんだよ!

 本音はそれだ。

 シュウに、そう言ってやりたかった。

 とにかく――誰にも、邪魔をされたくなかったのだ。

 これ以上、自分のペースをメチャクチャにされたくない。

 メイという女一人だけでも手一杯、いや、手に余っているというのに。

 ノックを無視しようとした。

 ハルコの場合、勝手に入ってくる可能性もあるので、とっとと風呂場に行こうと思って動きかける。

 その時、ドアが言った。

「メイです」、と。

 瞬間、身体強制停止した。

 ハルコではなかったのである。

 そのドアの向こうにいるのは。

 たった一言の情報だけで、カイトは大慌てでドアの方へと向かった。

 大股で、力を込めて。

 本当にそこに彼女がいるのか、いや、いるに違いないのだが、全然実感としてなかった。

 はやる気持ちを押さえつつ、カイトはドアの側に近づきながら腕を伸ばして、ノブを掴むやガンと強く開いた。

 勿論。

 いて当然だ。

 しかし、いきなりこんな目の前で――しかも、ドアを開けるや目が合うなんてことは予測もしていなかった。

 驚いた茶色の大きな目に、吸い込まれてしまいそうになる。

 ハッ!

 カイトは我に返った。