ウソ!

 何か呆れられるようなことを言っただろうか。

 メイは驚いて、もうほとんど本能で。

 カイトの腕を掴んで引き止めてしまった。

 一瞬。

 時が止まった。

 彼女は、自分が何をいましたのか分かっていなかったのだ。

 手のひらに、しっかりとシャツの感触。

「あっ! ごめんなさい!」

 ばっと手を離した。

 何て大胆なことをしてしまったのか。
 無理強いして食べさせてもしょうがないのに。

 どうしようと、オロオロしながらカイトを見ていると。

 彼は、顔を歪めてため息をついた。

「着替えるだけだ」

 髪の毛の中に手をつっこんで。
 言いたくないかのように、唇をひん曲げて。

 メイは。

 そのまま、ヘタヘタと座り込んでしまいそうだった。

 よかった。

 怒ったワケでも、夕食を食べないワケでもないのだ。

 着替えて来ると言ってるのである。

 力が抜けそうになりながら。

「あ…すみませんでした。それじゃあ、下にいますから」

 自分でも意味のない、しかも妙な笑顔をしていることは分かった。

 そして、逃げるようにドアから離れて戻り始める。

 しばらく背中に視線を感じた後、ドアはパタンと閉まって。

 その頃のメイは、階段にさしかかっていた。

 身体に震えが残っていて――危なく足を踏み外すところだった。