「あの…ホントに?」

 まだ心配そうな声。

「るせぇ! 寒くねぇっつってっだろ! くだんねーこと言うな!」

 そして。

 また、怒鳴ってしまった。

「そんなに、怒鳴るものじゃないでしょう?」

 ダイニングの方から、いきなり声が出てきて、カイトは肝をつぶしそうになった。

 クソッ…忘れてたぜ。

 ドアを開けるなり、いきなりメイと会ったせいで、いろんな注意も全部一緒に吹っ飛んでしまったのだ。

 それに腹を立てた意味も込めて、思い切り睨みつけた。

 ハルコだ。

 この夫婦ときたら、入れ替わり立ち替わり、いつまでカイトを脅かせば気が済むのか。

「あら、そんなに睨まないで…お話ししたいことがあるから待っていたんですよ」

 食えない笑顔に、しかしカイトは騙されたりはしなかった。

「オレの方はねぇ!」

 とっとと帰れ。

 これ以上好奇の目にさらされるのに耐えられず、足早に歩き出した。

「あら…あらあら」

 ハルコの声がどんどん遠くなる。

 彼女のようなタイプは、隠し球を持っている。

 不意打ちがうまく、カイトの足を止めさせるような言葉を吐くのだ。

 そんなものに引っかかるワケにもいかなかった。

 カイトは物凄い速さで玄関を行き過ぎると、階段を駆け上がり。

 バターン!!!

 拒絶の意味で、部屋のドアを思い切り叩き閉めたのだった。

 チクショウ!

 どうして、この家には出入りする人間が多いのか。
 今更なことを憎みながら、上着を脱ぎ捨てる。

 こんな早い時間に帰ってきたのを――また、ハルコに見られてしまった。

 その事実だけでも、カイトには死ぬほど耐えられなかったのだ。