彼女は出迎えに来たのだ。

 だが、なかなか開くはずのドアが開かない。

 もしかしたらあの音は空耳で、帰ってきたのは気のせいなのかと思って、あきらめて帰ろうとした矢先に、カイトがドアを開けたのだ。

 カイトの右脳は、問題児だ。

 見てもいない景色なのに、勝手にムービーを創作してしまったのである。

 ある意味、職業病のようなものでもあった。

 カイトを、出迎えに。

 その単語に、彼の意識はしっかり引っかかってしまった。
 無理に取ろうとしたら、一張羅の服をかぎざきにしてしまいそうな位置。

 落ち着かない緊張感に、カイトは更に顔を歪めてしまった。

 しかし、空気が動いた。

 メイがぶるっと身体を震わせたのだ。

 そこでようやく、まだ自分が玄関のドアのところに立っていることに気づいた。

 外の寒風が玄関に吹き込んでいるのだ。

 カイトだって寒かったのだが、いまの一瞬、すかっと忘れてしまっていた。

 暖かい部屋にいたのだろう。
 メイは上着もない状態で。

 ムカッとしたカイトは、彼女をよけるように強引に玄関に入ると、バタンとドアを閉めた。

「わざわざ出てくんじゃねぇ…」

 怒鳴らなかったのは、本当はイヤじゃなかったから。

 それどころか、帰って来るなり彼女が出迎えようとしてくれて―― いや、複雑なところだった。

 いろんな事情が絡んでいるのだ。

 出迎えてくれて嬉しい、なんてムシズだらけのことを言えるハズもないし、もう二度とするなと言って、本当にされなくなってしまうと、それもまた。

 あとは。

 彼女の行動が、一体何を根っこにしているのか。

 カイトは、それを考えないようにした。

 考えてしまうと、自分がそれに暴れ出すのを知っているからだ。

 考えなければ、こういうささやかなジンとする気持ちを感じることが出来るのである。