ムカムカ。

 間に合ったというのに、カイトはめっぽうムカついてしまった。

 そんなことは、瑣末に過ぎないとでも言わんばかりだったからだ。

 カイトの性格を計算して、こういうことを言っているのだったら、絶対ブチ殺している。
 しかし、シュウは本当に仕事の能率を優先しているだけなのだ。

「こちらの書類ですが」

 カイトの苛立ちなど知らずに、仕事を遂行しようとする。
 茶封筒から、書類を10枚ほど出したのだ。

 そうして彼に渡す。
 急ぎの仕事のようだ。

 朝から書類が回ってきたということは、開発室にいまから入ることは出来ないということでもあった。

 この仕事を、まず片付けないといけないのだ。

「てめーで処理しろ」

 書類を受け取らずに、フンと首を横に向けた。

 ただでさえ機嫌が悪いのに、さらに機嫌の悪くなるようなデスクワークなんか、誰がしたいものか。

 そういう意思を、口調の中に思いきり込めた。

「困ります。この書類は、社長に目を通していただいて…場合によっては、会議の招集をかけないといけません」

 しかし、シュウは怯むこともなかった。

 これが自分の職務だと言わんばかりに、書類をもっとカイトの方へと突き出してくる。

「どうせ、てめーの頭ん中じゃ、会議を開くってのは予定として入ってんだろうが」

 そんなことは、資料をみなくても分かる。

 会議招集の必要のないようなものであるとするならば、こんなに朝一番で自分の手で持ってきたりするハズなどないのだ。

 目を通すだけ無意味に思えたカイトは、かなり角のある言葉を吐いた。

 シュウは眉をふっと寄せて。

 そうして、彼とは正反対の慎重な口の開け方をした。

「たとえ、私がそう思っていたとしても…決定するのは私ではありません」

 そんな簡単なことも忘れてしまったのかと、シュウの目が彼の職務能力を測ろうとする。