足元で、赤いワインの瓶が割れて飛び散る。

 メイに渡したのを落としたのかと思って、カイトはばっと顔を前に向けた。

 そこに彼女がいるはずだった。

 しかし、いたのはソウマだった。

 え?

「はっはっは、しょうがないヤツだな…男なら男らしく、ちゃんと告白したらどうだ?」

 脳天気な笑顔で、いきなり脈絡もない話をし始める。

 待て。

 さっきまで、メイがいて。

 ここは客間の前だったはずなのに、どう見てもダイニングの光景に変わっている。

「カイト…」

 呼ばれて。

 振り返っていたのは、シュウだった。

「最近、勤務態度がたるんでいますね…あのアタッシュケースはどこへやったんです?」

 話の内容と順番がめちゃくちゃなことを言い出す。

 シュウは、決してこういうことは言わないヤツだ。
 いや、前半と後半をバラバラに言うことはあるだろう。

 しかし、一度の言葉の中に混ぜたりしない。

 分かった。

 これは、夢なのだ。

 カイトは、いま、夢を見ているのである。

 最初のメイがいたのも?

 やや混同している意識ながらも、彼はここが夢であることを、ちゃんと知ることが出来た。

 そうなれば怖いことはない。

「何も知らねークセに、勝手なこと言うんじゃねぇ!」

 だから、思い切り怒鳴る。

 ここは、自分の意識の世界なのだ。誰にも、聞かれたり見られたりすることはない。