「だって……だって、こんな……こんな」

 うつむいたまま、毛皮からのびる白い手が、ぎゅうっとカイトに借用書を押しつける。

 クソッ。

 くれるってんだから、黙ってもらっとけ。

 内心でぶすくれる。

 こういう展開は、彼は大の苦手なのだ。

 だからと言って、全部ナシにして、また彼女を戻す気なんか一切なかった。

 ったく。

 んなもんが、あるから面倒なんだ。

 カイトは、彼女の手から借用書を取り上げた。

 メイが顔を上げるのが分かった。

 その目の前で。

 ビリビリッ。

 カイトは、2つを4つに。

 4つを8つに破ったところで手を止めた。

 そうして、冬の窓を開ける。

「アディオース!」

 心の苛立ちとは正反対の冗談めかした口で、カイトはその紙切れを放り捨てたのである。

「あっ!」

 茶色の目が、その行方を追う。

 窓を閉める。

 メイを、見た。

「もう……戻りたくても戻れねーぜ」

 呆然としたままの彼女に、カイトは全然柔らかくない声で言った。

 乱暴な目をしながら。

 ひねくれたままの唇が、彼をどうしても素直にさせてくれないのである。

 本当は、もう絶対に戻したくないくせに。

 やはり、現状を把握しかねている不安そうな目が彼を映す。


 これでは――誰が善人で悪人なのか、さっぱり分からなかった。