「ああ、紹介するわ…メイ」

 ハルコが、その光景ににこやかに微笑んでいる。

「私の夫で、ソウマというの…職業は、経営コンサルタント…でいいのかしら?」

 細めた目で、アイコンタクト。

 2人の間に綺麗な糸がたくさん見えて、メイは驚いた。

 そして嬉しくなった。
 すごくお似合いの夫婦だったからだ。

「それは、仮の姿という話があるがな…おっと、忘れるところだった」

 紹介された男――ソウマは、もう片方の手から魔法のように一つの瓶を出した。

「いいワインが出てきたんだ…お嬢さんも飲めるような、少し甘いのだよ」

 食前酒にどうぞ。

 出てきたのは、赤ワインのボトルだ。

 蔵からでも出してきたのだろうか。
 拭いそこねた一筋の埃が、そのワインの歴史を物語っていた。

 きっとハルコが、昨日彼にこの家のことを話したのだろう。

 多分、いくつもの誤解で。

 だから、ワインなどプレゼントしてくれるのだ。

 戸惑って受け取れないでいると、ソウマは眉を動かした。

 そんな反応に出られるとは思ってもなかったのだろうか。不思議そうだ。

「ソウマ…いきなりすぎて驚いているじゃないの。女性を口説く時は、もっと外側からって…教授していたのは誰だったかしら?」

 それに笑ったのはハルコで、ソウマは首だけ振り返った。

「あー、ダメだダメだ。あいつは算数はともかく、そっちは落第だ。まったく、カイトといいシュウといい、ロクな生徒がいなかったぞ」

 余りにソウマが、それをスラスラと面白そうに言うものだから、思わず笑いそうになった。

 カイトとシュウのほっぺたに、彼が落第のハンコを容赦なく押しているところを想像してしまったのだ。

 それと同時に、彼ら4人が大学のキャンパスを歩いているところまで、空想のように押し寄せてきた。

 きっと、人目をひくような4人だったに違いない。

「あら? あなたがとても優秀だったように聞こえるわ…私はちょっと異議があるわね」

 ハルコのその一言で、彼女はもう我慢できなかった。
 声をたてて笑ってしまって、慌てて口を押さえる。

 けれども、2人ともひどく優しい目でメイを見ていた。

 不思議な人たちだった。