上着をひっつかんで、まっさらなラークの箱を一つその内ポケットに突っ込みながら、カイトは開発室を出ようとした。

 コンピュータの電源など、つけっぱなしである。

 省エネや地球環境に優しい連中など、ここにはいなかった。

 定時にどうやら上がろうとしているカイトの背中に、いくつか怪訝な目が飛んだ。

 パソ・トリップしてない連中が、数人いたようである。

 振り切ってドアを出た。

 副社長室には行かない。
 どうせシュウも、定時では帰らないのだ。

 カイトは、そのままエレベーターで地下駐車場まで下りた。

 どっちが緊急に出るコトになってもいいように、守衛に鍵を預けるようにしているのだ。

 いつも副社長がヒマで、運転手が出来るというワケではないのだから。

 それどころか、ヘタしたらカイトよりも忙しい仕事である。

 煩雑で細かい仕事の山。
 考えるだけで、具合が悪くなりそうだ。

「おや? 今日はおひとりで?」

 守衛のジジィから鍵を受け取りながら、カイトは不機嫌な生返事をした。

 急いだ足取りで、車まで向かうと乗り込む。

 腹が立つことは、座席の位置をやや調整しなければならないこと。

 あののっぽと同じ位置では、クラッチがうまく踏み込めないのだ。

 ガッと乱暴に座席調整して、カイトは車を出した。