彼が、ずっと枕だと信じて疑わなかったものが、枕ではなかったのである。

 ピンクのカタマリ。

 いや、それはメイのカタマリだった。

 彼の方を向いて、身体を横にしたまま安らかな寝息を立てている。

 2人の間に、ズレ落ちた毛布が――1つのそれにくるまっていたことを証明しているかのようだった。

 な…な…。

 言葉もでない。

 慌てて周囲を見回すと、どうみても自分の部屋の自分のベッドだった。
 何一つ間違いなかった。

 何で、オレがベッドに寝てんだよ!

 それが一番信用できなかった。

 確か、彼は昨日ソファに行ったハズである。ベッドではない。

 そこから、カイトは芋づる式に記憶を甦らせた。

 彼は――ソファから降りて、部屋を一度出てしまったのである。

 シラフじゃいられなかったのだ。

 だから、部屋を出てダイニングに行って、うざったいシュウに怒鳴って、そうして。

 酒を。
 そうだ。
 酒を飲んだのだ。

 ……覚えてねぇ。

 冷や汗がダラダラ流れてくる。

 酒を飲み始めたことまでは、はっきり記憶があるものの、それから先がわずかも残っていなかった。

 まさか、メイがカイトをソファから運んだ――などという物凄く可能性の低い推理にすがることも出来ない。

 ということは。

 酔って帰ってきた彼は、自分でベッドに潜り込んでしまったのだ。

 メイを見る。

 頬にかかった黒い髪のなだらかなウェーブ。
 呼吸のために薄く開いた唇。とざされた目元の長いまつげ。投げ出された細い指先。

 幸い。

 彼女はパジャマを着ていた。

 その事実にホッとしかけたカイトは、しかし、見てはいけないものを見てしまったのだ。

 メイのパジャマの胸元は、胸の形を表すような影がさしていた。中央付近にうっすらと。

 ボタンが一つ外れているのだ。

 オレじゃ。

 カイトは、目をそらしながら更にダラダラ汗を流す。

 オレじゃ…ねーよな。

 それはもう神のみぞ知る世界だ。