「そんなことできません!」

 ばっとタオルをひきはがして、彼女が強い声で主張する。
 とんでもない、と言わんばかりだった。

「いーって言ってんだろ! オレは気にしちゃいねー!」

 分かんねー女だな。
 黙ってオレの言葉を鵜呑みにしろ!

 カイトは、本当に無茶苦茶である。

「だって…あんな…そんなのおかしいです」

 何で、そんなによくしてくれるんですか? 分かりません。

 うっ。

 カイトは、彼女の言葉に詰まらされた。

 自分でも答えの出てない、一番の疑問点を突っ込まれたからだ。

 彼は顔を歪めた。

「……むかし…そう、昔! その…オレも、見ず知らずの人に借金を返してもらったんだよ…だから! だから…いいんだよ。オレが…そうしたかったんだ」

 つっかえつっかえ――カイトは、木星の唇を動かした。


 勿論、大ウソである。


 カイトにそんな過去などあろうハズがなかった。
 けれども、これくらいの理由がなければ、メイが納得しないように思えたのだ。

 シーン。

 カイトの最後のセリフで、ダイニングが静まり返る。

「そう…だったんですか…」

 彼女の声が、いきなり同情的なものに聞こえた。

「ばかやろ! 同情される言われなんかねぇ!」

 あんな下手なウソを、見事に彼女は信じ込んでくれた。
 よほど人を疑わない性格だ。これでは、世の中で騙されたい放題である。

「……すみません」

 しゅん。

 カイトが畳みかけたせいで、また彼女は小さくなろうとした。

 だー!!!!

 また、苛立ちとかそういうものが、一斉にヤリを持ってカイトに襲いかかってくる。

 こういう言葉のやりとりは、本当に彼は苦手なのだ。

「でも…」

 それなのに、まだメイは、食い下がろうというのか。

 カンカンッッ!!!

 カイトは、フォークで皿を乱暴に叩いた。
 もう、この話題で彼女としゃべりたくなかったのだ。

 伝えることは伝えた。

 彼には、これ以上言う言葉を探せるハズもない。

「メシだメシ! ハラ減った!」

 けれども――これも大ウソだった。