メイの方に行くのではない。

 ドアをへだてた、続き部屋の調理場へ行くのだ。

 電気をつけて、ばっと周囲を探す。

 ハルコが綺麗に掃除をしてくれているようで、流しなどピカピカだ。
 しかし、彼が探しているものは流しじゃない。

 顎を巡らせる。

 あんな、『泣きました!』と宣言しているような顔のまま、食事をさせるワケにもいかなかったのだ。

 第一、カイトがそんな顔を見たくなかった。

 フキンで顔を拭かせるワケにもいかない。
 あれは、何に使ったか分からないようなタオルだ。

 カイトは、めぼしいものが見つけられなくて、足早に調理場をウロウロした。

 ようやくキッチンタオルを見つける。

 箱ごとがしっと掴むと、カイトは調理場を後にした。

 ドアも開け放したまま、電気もつけっぱなしのまま、カイトはダイニングに戻ったのだ。

 メイは、うつむいていた。

 その横に立って、ダン、と箱ごと置く。

 そして、また無言で自分の席に戻った。

 どすん、と座って。

 彼女にかける言葉を検索する。

 とにかく、メイを少し安心させる言葉が必要だったのだ。

「あー…」

 とりあえず唸ってみる。

 これで言語中枢のつかえが取れるというワケではないが、このまま黙っていると喉の奥から言葉ではなく、違うものが出てきそうだった。

「あー…あのな」

 がしっと頭に手を突っ込む。

 食事の前には、あまり衛生上よくないことだが、いまの彼はそれに気づいていない。

 メイは、彼の持ってきたキッチンタオルを取り出しながら、顔を拭き始める。

 でも、言葉は聞こえているはずだ。