その沈黙を壊したのは、やはりカイトだった。

 こらえきれないように、息が吸い込まれる。

 彼女の分の空気が、薄くなってしまいそうなくらい。

 また怒鳴られる。

 そう予感したが、外れた。

「オレが…出てけっつったのは…あのシュウの野郎だ」

 ざけたことヌカしやがったから。

 声が――物凄くバツが悪そうな音に変わったのだ。

 こういう事態を人に見られたせいか。
 それとも、自分の言ってる言葉のせいか。

 メイには分からなかった。

 けれども、分かったことがあった。

 あ…。

 信じられなかった。

 信じられられないことだらけの中で、これが一番信じられなかった。

 私…。

 彼は触れんばかり、すぐそこだ。

 息づかいだって、彼女の頭の後ろ。
 本当に側。息が当たるのだ。

 走ったせいで乱れ続ける胸――違う。

 この胸の乱れは、違うのだ。

 分かったのだ。

 私…私、この人が…。

 この人のことが。


 ……好き。


「ふ…え…」

 好き、好き…苦しい。

 止まった涙がまたあふれ出す。

 信じられなかった。

 やっぱり、何回噛みしめても信じられなかったのだ。

 けれども、一度好きだと思ったら、次から次へと思いと涙があふれ出す。

 何で、出て行けと言われてあんなにショックだったのか。

 ハルコの存在が、カイトにとって大事な人だと誤解したときに涙が流れたのか。

 全部、符号が合った。

 カイトを、好きなのだ。