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 案内されたボックス席は、薄暗くて空気がよどんでいた。

 中央の方の大きなボックスでは、会社帰りだか接待だか分からない背広連中が、ギャーギャー騒ぎながら下着姿の女に抱きついていたりする。

 壁際のボックス席は、一人で来る客用のものだ。
 おそらく、故意に照明が当たらないようにしているのだろう。

 いかがわしさ絶大だった。

 何しろ、ここは――ランジェリーパブなのだから。

 フン。

 自分も一人用ボックスの連中と同じムジナなクセに、他の暗がりでの怪しさを鼻でせせら笑った。

 アタッシュケースを座席に放り投げ、背広を脱いでその上に放り投げる。

 ただでさえ緩めていたネクタイを、更に長い指でぐっと引っ張って緩める。

 こんな格好なんか、彼――カイトは大嫌いだった。

 普段は、極力背広を着なくていいような仕事をするのだが、どうしても会社を経営している以上、その格好は避けられない。

 そう。

 カイトは、代表取締役社長なのである。

 彼が一から作った会社だった。

 全ては、カイトの作ったパソコンゲームが、コンテストで賞を取ったことから始まったのだ。

 そこで彼は知ったのである。

 ソフトは、物理的コストがかからないことに。
 必要なのは才能的コストだ。

 カイトには、それがあった。

 しかし、彼になかったものがある。

 経営手腕である。

 カイトの苦手とする、対外的な仕事をする人間が必要だった。

 だから、その方面に才能のある幼なじみを、無理矢理自分の作る会社に引きずり込んだ。

 カイトが21歳の時のことである。

 それから2年――いまや、押しも押されぬ大ソフトメーカーに成り上がったのである。

「KO-NAN」

 ゲームソフトには、そんな風に会社名が記されているハズだ。

 鋼南電気。

 それが、カイトの会社。