食事を済ませた後、食器を水に浸した。
その後、歯磨きをして歯に挟まった固い米粒と共に排泄口に流した。
父親も跡を追うように歯磨きをし始めたが、僕はそそくさと二階へと上がった。
開け放していたカーテンから一層と強い日差しが差し込む。
僕はカーテンを閉めた。
部屋は依然として明るいが、カーテンの色に汚染され緑色がかっていた。
怪しまれないためにも、僕は寝袋をランドセルに詰め込んだ。
立方体型のランドセルが丸々と太ってしまった。
なかなか綺麗に閉まらなくて苦戦したが、何とかして閉めた。
僕は、そのランドセルと前もって準備しておいたリュックを肩に背負って階段を降りた。
そこで偶然にも父親と遭遇した。
「ん?亮太……えらい大荷物だな」
「う、うん。今日は体育と図工が重なってて、持っていかなきゃいけない物がたくさんあるから」
「ふ~ん……そうか。落とさないように気をつけろよ」
「分かってるよ」
そう言って、僕は父親に背を向けた。
父親もこれ以上何も言うことがなかったらしく、自分の支度に取りかかった。
父親に向けた最後の台詞が『分かってるよ』じゃあまりに忍びない。
そう思った僕は、家を出る前に「行ってきます!」と大きな声で言った。
父親はひょこっと顔を出して「行ってらっしゃい!」と笑顔で送り出してくれた。
ドアが閉まる音と同時に、僕は小さな声で「さようなら」と呟いてやった。