――桜が散って、葉が芽生える。
それが、葉桜。
自分の愛が、伝わりますように。
あたしには、居場所がない。
あたしには、家族がいない。
あたしには、行き場がない。
深く、深く、溺れていって、とうとう
上がれないところまで堕ちてしまっていた。
残酷で、過酷で、苦しくて、
助けてほしくて、泣きたくて、笑いたくて。
誰に、言えば、いいんだろう――――――――――………。
いつもと同じ朝。
いつもと変わらない自分の部屋。
いつもと変わらない怒鳴り声。
部屋の隅にかかった制服に袖を通さなくなったのはいつごろからだろうか。
学校は夏休みに入り、みんなは部活やら補習やら何かと忙しいみたいだ。
それなのにあたしは、夏休み前と変わらない、そんな生活。
誰かに助けてと言えるなら。
誰かに助けてと叫べるなら。
あたしはとっても救われるのに。
とっても…救われるのに。
「葉奈!!」
ビクッと体が必要以上に反応する。
「酒がねぇ!!お前、どこに隠したァ!!」
「……ッ」
部屋に男が入ってくる。
酒の瓶を持ちながら。
「やっぱりお前が隠したんだなァ!?どこにやったァ!!」
一方的に言葉をぶつけられる毎日。
もう、こんな生活は5年も続いている。
高校生になったら家を出ようと貯金までしていたのに、その金を使ったのはこの男。
あたしが家を出る計画を何らかの方法で知ってしまったのかもしれない。
怒って、ブチ切れて、預金が0になるまで使い果たしてしまったのだ。
「…知らない…」
首を振って否定する。
「ウソつくなァ!!早く出せ!ださねぇとお仕置きするぞ!!」
「…ホントに…、知らなッ…」
そう言った時、男の拳が飛んでくる。
「…ッ!!」
反射的に目を瞑ったその瞬間、頬に刺激を感じる。
…口の中が切れたようだ。
血の味が…鉄の味が広がってゆく。
「…っ…」
あたしは男を睨んだ。
外は真っ暗。
時間は23時。
もうすぐ、夜が明ける。
こんな生活、もういやだ。
そんなとき、男の携帯が鳴った。
運よく、か、運悪く、か。
瞬時を見計らって、部屋から抜け出した。
男の怒鳴り声が後ろから迫ってくる。
捕まれば、殺される。
そのことが頭を支配し、あたしは靴もはかずに家を飛び出した。