。●
結局、学校にいる間には何事もなく、彼はいつものように女子に囲まれていた。
私がちらちら視線を送っても、まるで無視。
昨日のことなんて、夏特有の蜃気楼とでもいいたげな振る舞いは、記憶喪失か双子の兄か弟かとさえ思わせるほどだった。
(謎すぎ……)
放課後になって、ミッチは謝りつつも、ラブラブ中の彼氏のところへ一直線で。
残された私は、ひとりで思案しながら帰っていた。
そのときだ。
――ガシッ!
「…………!?」
急に背後から、誰かに抱きつかれた。
この、キレイでほくろひとつない手。
ケアされた爪。
見た目よりずっと、がっしりしてる二の腕。
そして、どうやらコロンの類じゃなさそうな、でもふわっと鼻に届く香りとオーラ。
「ち……千住、くん?」