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結局、学校にいる間には何事もなく、彼はいつものように女子に囲まれていた。



私がちらちら視線を送っても、まるで無視。



昨日のことなんて、夏特有の蜃気楼とでもいいたげな振る舞いは、記憶喪失か双子の兄か弟かとさえ思わせるほどだった。




(謎すぎ……)




放課後になって、ミッチは謝りつつも、ラブラブ中の彼氏のところへ一直線で。



残された私は、ひとりで思案しながら帰っていた。



そのときだ。



――ガシッ!



「…………!?」



急に背後から、誰かに抱きつかれた。



この、キレイでほくろひとつない手。



ケアされた爪。



見た目よりずっと、がっしりしてる二の腕。



そして、どうやらコロンの類じゃなさそうな、でもふわっと鼻に届く香りとオーラ。



「ち……千住、くん?」