(えっ、えっ、こっちにくるの?)



心の準備ができてないーっ!



まわりにギャラリーいるのにー!



表面上は冷静を保ちつつ、内心取り乱してあたふたしていると、彼はくるりと身をひるがえした。



(え……っ?)



近づくどころか、あっさりドアから外へ出ていく。




(……そ、そうよね。そりゃそうよね)




ほっとしたような、肩透かしをくらったような、複雑な気持ち。



不覚にも、どこかで「よっ」とか「おはよ」とか、声をかけるくらいはしてくれるかもと思ってしまった。



昨日、あれだけ消しゴムで消したのはずなのに。



熱望のあまり、筆圧が強くなりすぎて消しきれてなかったのかな――。