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「…兄ちゃん、アンジェロ、」
リュカが出て行った部屋で、1人残されたバスチアンは何をするでもなく、ドアの前で座り込んでいた。
(…僕、僕のせいだ。僕が居るから兄ちゃんもアンジェロも、)
―――堕天使だってことを恥じるな
リュカがさっき自分にかけた言葉が蘇える。
(…でも僕、)
そんなふうに強くなれる自信がないよ。
どうしてみんな、大切な人や大事に想う人のことを守れないんだろう。
パパだって、アンジェロのママだって、一緒に死んじゃったら意味がないのに。
幸せになりたい―――みんなそう思ってるはずなのに。
(…兄ちゃんは僕を守ろうとしたんだ)
アンジェロは兄ちゃんを守ろうとしたんだ。
(…僕は)
誰を守れるんだろう。
「――――あ、」
バスチアンはあることを思い出して、描いていた絵のある部屋へ飛び込んだ。
そしてキャンバスを捲って、隠していたものをそっと取り出す。
それはいつか兄に貰った真っ白な一枚の羽根だった。
アンジェロに貰った幸せの羽根を、リュカは最愛の弟へ譲っていたのだ。
(…そうだ、天使の羽がここにあるじゃないか)
これに願えば、アンジェロも元通りになるはずだと、バスチアンの顔色がぱっと輝く。
(…兄ちゃん、待っていて!僕きっと、役にたてるから、)