「光ちゃん、そばにいてね。」

携帯電話を握りしめて、明日見が言った。

「そばにいるから大丈夫だよ。」

明日見は微笑むと、今日子に電話するため、携帯電話を開いた。


呼び出し音が鳴っている。明日見はオレの手を握ったが、その手には冷や汗をかいていた。


「もしもし。」

電話の向こうから声がした。明日見は、ビクッとしていた。

「どちら様ですか?」

「羽田です。羽田明日見と言います。」

今度は、今日子がビクッとしているようだった。
「田所美雪さんから連絡先を聞きました。突然にすみません。」

「本当に明日見なの?」
「はい。あなたは本当に私の母親ですか?」

長い沈黙だった。

「ゴメンなさい。」

今日子は泣いているようだった。

「ゴメンなさい。」

今日子は繰り返した。

「あなたは私を棄てたの? いらない子供だったから棄てたの?」

意外にも明日見の声は冷静だった。

「違うわ。子供を産むには早すぎたの。私には夢があったし。」

「夢の為に私を棄てたの? どれほどの夢だったの?」

「スチュワーデス。今でいうキャビンアテンダントね。空を飛びたかったの。空が好きだから。」

今度は、明日見が泣く番だった。

「明日見? あなたに会いたいわ。」

「また、連絡します。」

明日見は携帯電話を閉じた。