明日見は、突然立ち上がり、何も言わずに玄関へと向かった。


ここで明日見が出て行ってしまったら、もう二度と会えない。


サンダルを履こうとしていた明日見を後ろから抱き締めた。


「いなくなっちゃダメだ。」

やっとの思いで言った。

明日見は、何も言わなかった。

こんなに明日見は、華奢だっただろうか?

こんなに弱かっただろうか?


「いなくなっちゃダメだ。」

もう一度言った。


明日見は、身動ぎ一つしなかった。


瞬きする音さえ聞こえるような沈黙であった。


オレの手の上に、明日見の手が置かれた。

でも、何も言わなかった。

そして、明日見はゆっくりとオレの方を向き、涙を溜めた目でオレを見上げた。

「ありがとうね。」

弱々しく微笑んだ。

今までで一番美しいと思った。