「ここだよ。」

目の前に“羽田家之墓”と刻まれた、ごく普通の墓があった。


手分けして草をむしり、掃除をし、花を活け線香に火を点けた。


明日見は手を合わせ

「おばあちゃん、誕生日おめでとう。」

と呟いた。

明日見の隣に腰を降ろし
「羽田さん、お誕生日おめでとうございます。」
と手を合わせた。

それだけ言うとオレは立ち上がり、少し離れた所から明日見を見守った。

明日見は何かブツブツと呟いていた。
近況報告でもしているんだろう。


急に立ち上がった明日見が、突然大声で泣き出した。
まるで、子供のようだった。

オレは、どうしていいのか分からなかった。

このまま見守るべきか?
駆け寄って抱き締めるべきか?


どうしようかと迷っていると、目を真っ赤にした明日見が近付いてきて言った。


「女が泣いたら、男は黙って抱き締めなきゃ。」
とオレの胸に顔を埋めた。


こんな時さえ、オレに気を遣わせないように冗談ぽく話す明日見が、愛しく切なく見えて、力を込めて抱き締めた。