「ゆづき…?」


波がゆらゆらと揺れる。月の光を浴びながら、あたしは振り向いて笑う。

「見て、海が真っ黒だよ。あの中にいけたら、あたし、もう、つらくないかなあ…」

あたしは砂を踏み締めながらゆっくり海に向かい歩いていく。こおた、ごめんね、ごめんね。そればかり考えていた。こおたは必死に砂を蹴って、あたしを行かせないようにと腕を引っ張る。


「ゆづきっ、ゆづきっ!ゆづき、だめ、だめだよおっ!」

こおたは、泣きじゃくりながらあたしの腕を掴んで離さない。

「だめ、だよっ!死んじゃだめ!死んだらなんにもなくなるんだ!楽しいことも嬉しいこともなんにもない!」

叫ぶこおたのまっすぐな目から視線を逸らすことができなくて、あたしは泣いていた。

「海の中は、冷たいし苦しいよ!なんの明かりもなくて暗いんだ!そんな寂しいところに、ゆづきをひとりにできないもん!ぼくがいるよ!今思いきり泣けばいいじゃない!」


「こ、たっ…」

大きく開いたあたしの両目から、また熱いしずくがこぼれ落ちる。祈るように、願うように、あたしにひたすら懇願するこおた。その最後の言葉を聞いた瞬間、あたしはその場に崩れ落ちた。




「だから、生きて───」





どこを見たって真っ暗なトンネルみたいな暗闇に、淡く儚い光がさした。すべての苦しみを吐き出して尚、途方に暮れて絶望した夜に生きてと叫んだきみの泣き顔を生涯忘れはしない。幼い心に強くそう誓った。


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