薄いパジャマのまま冬の寒空の下に立ち尽くすあたしは、家の外から動けずにいた。


「お帰りなさい、あなた!」

媚びるような甘えるようなお母さんの声。お父さんに擦り寄るお母さんの姿が簡単に想像できた。

「ただいま…あれ?優月は?」

「ああ…お友達のお家に泊まりに行くんですって!」

当然のようにすらすらと嘘を並べるお母さん。このひとは女優さんにでもなった方がいいかもしれない。そうか、今日は寂しいなあ、と呟いたお父さんの低い声に、少しだけあたしの目が潤む。



気が付いたらあたしは駆け出していた。ひたすら走って走って走って、辿り着いたのは海岸。誰もいない砂浜に、波の音だけが響く。目の前に果てしなく広がる海は真っ黒で、月明かりに照らされて不気味にきらきらと光っていた。

あたしは石段に座り込み、かじかむ手をきゅっと握ってじっと寒さを堪えた。なんだかよくわからないけれど、涙がこぼれる。


「うっ…ぐす…っ、ひっ…く、」

パジャマの裾で拭っても拭っても止まることのない涙は砂浜にいびつな形のシミをつくる。足に軽く痛みが走って見下ろしてみると、そこで初めて靴を履いていないことに気付いた。

「!……うっ…」

また涙が溢れ出す。


もう、あたしは、だめだ。くるしい。かなしい。さみしい。くやしい。つらい。もう、だめだ。


そう思った時だった。



「ねえ、なんで泣いてるの?」


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