「さて、いくとするか」

 E値発見の翌日──夕刻。

 直樹は、改良し終わったばかりの革手袋を背広のポケットに押し込んだ。

 改良したのはもちろん孝輔で。

 おかげで、昨日もまともに寝ていない。

 そのせいか、頭がぼーっとする。

 幸いなのは、今日はもう室内測定器を持っていかないため、運転を兄に任せられるところだろうか。

 事務所が入っているビルの地下駐車場につくと、サヤは迷いなく後部座席のドアに向かう。

「サヤちゃんは助手席にどうぞ~」

 茶髪メガネが、猫なで声で前を勧めた。

 気色悪いにもほどがある。

「いいえ、私はこちらで…」

 後部座席のドアを開けようとする彼女を止めて、孝輔は前に押しやった。

「え?」

「後ろ空けてくれ」

 あくびをかみ殺しながら、彼はさっさとドアを開けた。

「つくまで寝る」

 そのまま乗り込んでドアを閉めるや──ごろん。

 自分のアコードワゴンなら座席を片付けてしまって、広いベッドにできただろう。

 セルシオではそうはいかないが、寝心地はまあまあだ。

「大丈夫ですか?」

 助手席に乗り込んだサヤが、こっちを振り返る。

「だいじょー…」

 言いかけたのはそこまで。

 自分でも信じられないほど早く、睡魔は孝輔を連れ去った。