「孝輔さんは、どういう時に怒ります?」

 八方手詰まりで唸り疲れた頃、サヤがぽつりとそう切り出してきた。

 本日のテーマは『怒り』。

 いや、ここ数日のテーマがずっとそれだった。

 怒りの数値を探すこと──いまのところ、作業は暗礁に乗り上げていたのだが。

 どういう時に怒るって。

 改めて聞かれると、意外に即答できない。

 孝輔が怒るとき。

 そうだな。

「『理不尽』な時…」

 何しろ、すぐ側にいつも理不尽の塊がいるのだ。

 怒らず心穏やかでいられた試しが少ない。

「あの古い壷が、理不尽に感じていることは何なのでしょう」

 サヤなりに、協力してくれているのだろうか。すっかり考え込んでいる。

 しかし、それがいまのところ、孝輔の仕事の足しになるとは思えなかった。

 霊の心情や背景の話だったからだ。

 彼らは、そういうものを意識して仕事をしていない。

 怒りそのものは得意分野であっても、霊の気持ちなど分かるはずもなかった。

「さあね、新しい壷が来たから、お局様みてぇに新人いじめでもしてんじゃねえの?」

 だから、適当に答えた。

 縁眼鏡で髪をひっつめた典型的なオールドミスの姿が、孝輔の脳裏をよぎる。

 姑みたいにうるさい、ネチネチしたアレだ。

 貧相な想像力だったが、つい自分でも笑ってしまった。

 が。

「え?」

 サヤが、驚いて動きを止める。

 彼の答えが、意外でしょうがないみたいに。