霊をわざと怒らせようなんて、サヤにとってはとんでもないことなのだから。

 こんな、不埒なことを考えたとバレたら、兄に叱られそうだ。

 でも。

「うー」

 孝輔は、唸りながら頭をかきむしっている。すっかり手詰まりになってしまったのだろう。

「……」

 サヤも、唸りこそしなかったが、同じような気分だった。

 でも。

 私は、ここの社員になったのだし。

 兄さんの親友の弟さんが大変なんだし。

 要するに。

 彼女は、言い訳を考えていたのだ。

 ヤイバにこの事実が知られても、怒られないための理由。

 ひっくり返せば。

 心のどこかで、孝輔を手伝いたい気持ちがあったのである。

 彼を突き動かしている衝動は、決して清らかなものではないと分かっているというのに。

 ええと。

 考え中。

 頭の中では、インド象が悠然と歩いていく。

 ゾウが1頭、ゾウが2頭。

 ゾウが67頭(うち3頭は水浴びのため行進をリタイヤ)まで来た時──ようやく、サヤの心は決まったのだった。