「あ、はい、私でお役に立てるなら」

 頑張ります。

 役に立つといっても、感じるものをそのまま伝えるだけしかサヤには出来ない。

 孝輔は彼女の言葉からヒントを得ようとするかのように、いろいろ質問してくるが、それにうまく答えられないのだ。

 何しろ、そう『感じる』だけなのだから、それに理由などなかった。

 そのせいで、仕事が難航しているようで。

 サヤは自分の出来る限り、彼に協力したかった。

「そっか、助かる」

 少しほっとしたように、孝輔の表情のこわばりがほぐれた。

 こうして見ると、彼は自分より年下のように感じる。

 難しい顔をしてパソコンに向かっている時は、そうは感じないのだが。

「じゃあ、片付け終わったらすぐ用意しますね」

 そんな表情を見ると、サヤもつられて顔がほころぶ。

 うまくなじめるか不安だったが、E値の件で関わることが増えてきて、少しずつ彼を理解できるようになってきた気がする。

 いまの孝輔の表情は、よい方向の証だ。

「オーケ……ぐえ!」

 そのまま向きを変えようとした彼は、突然カエルを踏み潰したような声をあげた。

「昼飯までには、サヤちゃんは返せよ」

 ひょっこりと。

 給湯室の入り口から、メガネの男が覗いていたのだ。

「立ち聞きしてんじゃねーよ!」

 またも勃発した兄弟ゲンカに、サヤはおかしくて笑ってしまった。

 一緒に、洗い物の水も笑った。