「怒っている子なら、一人いますね」

 彼女の衣装が、しゅっと音を立てた。

 ゆっくりと、サヤが足を踏み出したのだ。

 向かうのは壷の方。

 しかし。

 その壷は──着物少女の乗っていない、別の壷だった。

「孝輔!」

 直樹は、即座にもう一度手袋をはめた。

 その強い声に、はっと我に返る。

 何だ?

 無線リンクの確認をしながら、彼はまだ混乱していた。

 兄は、サヤのいる別の壷へと近づいて、その手を伸ばすのだ。

 そこに、一体何があるというのか。

「どうだ?」

 兄は、壷に触れていた。

 孝輔は。

 目を伏せた。

「ビンゴ……」

 R値はない。

 そこにあるのは、S値だけだった。