「ナカイ、俺の彼女を手に入れるまでの努力を、おまえは知ってるだろ」
シマは、終始、楽しそうに笑っていた。

「ああ、もうわかったって。シマ。ミクちゃんに話しかけるときは、必ずおまえに声かけるから」

「そんな。いいって、ナカイくん……」

「チューハイ、あと3つ!」

「あ、ジャーマンポテトも!」


私の声は、5.6人の騒々しいメンバーによってかき消された。
彼らは、シマのバンド仲間だ。
といっても、本格的に活動しているわけじゃない。
文化祭の前にだけ結成される、なんちゃっておちゃらけバンドだ。


私は、この場所にも人々にもなじめず、ただシマの所有物のように、おとなしくオレンジジュースを飲んでいた。


「なんで、私、こんなところにいるんだろ…」


ジュースの入ったグラスを、水滴がつたう。
ストローの袋が、テーブルの上でくしゃくしゃになって濡れていて、それを見ると、私の心はいっそう沈んだ。


話題からはみ出してしまった私は、数日前に出会った北小路大地のことを、思い出していた。