辺りは、すっかり暗くなっていた。
私は、シマの顔をまともに見ずにすむのが、せめてもの救いだと思った。


「今でも信じられない。明日から、ミクと一緒にいれないなんて」

「…うん」

「思い出すな。あちこち、一緒に行ったこと。繁華街でぶらついたとき、俺、すごく嬉しかった。あのとき、ミク、初めて俺と手をつないだんだよな?」

「そうだったね…」

「ミクの手、ずっと思い出して、俺、あの日眠れなかった。幸せだったな」

「そっか……」


シマの言葉の一つ一つが、罪悪感とともに、グサグサと私の心に突き刺さる。
お願いだから、もうやめて。
早く家に着かないかな。
――そんなことを考えながら、私は、シマのゆるい歩調に合わせて、自転車を重く引いていた。


「唯一、心残りなのが、ミクとキスできなかったことだな」


私の、罪悪感は、頂点に達した。


「………じゃあ、する?」

「えっ?!いいの??!」


暗く沈んでいたシマの声が、急にぱっと明るくなった。
いまから別れるっていうのに、この変化はいったいなんなのだろう。


第一、別れる間際に、ファーストキスするなんて、変な話。
シマは、私の反応を、どう捉えているのだろう?さっぱりわからない。