「こらこら、俺の女に手を出すな」

「シマ~。ミクちゃんにベタボレだね」


高校生のくせに、私たちはいま、酒を出す貸スタジオの店先にいて、放課後にチューハイライムなんかを飲んでいる。


鹿島(シマ)は、私の彼氏……だが、べつに好きでそうなったわけじゃない。
シマの、絶妙なる魔術に引っかかったまでのことだ。


ある日、「授業のノート貸して」と言われて貸したら、次に「返すから、家の近所の喫茶店まで来て」と言われた。
喫茶店に行くと、今度は「新しいCDを買いたいから、ついてきて」と言われ、一緒に繁華街へくり出すことになってしまった。
そして、その日が、二人の初デートになった。


その後も、シマは、私が興味を持っているアーティストのポスターや、好きな作家のサイン本なんかを学校に持ってきては、私の目の前でヒラヒラと掲げて、私に舌なめずりさせた。
そうやって、シマは計算通り、私を彼女に仕立て上げていったのである。


「好きだから付き合って」と言われたとき、私はすでにシマに借りがありすぎて、断りきれなくなっていた。