食堂に向かう途中、彼方は携帯電話を取り出した。

電話をかけたのは、警視庁の先輩刑事、紫波須紀明。


非番な筈の彼方から電話がかかった所為か、自棄に不機嫌な声色で紫波須は応答した。


「もしもし、九我です」

『わかってるよ、何の用だ、ボンボン』

「その呼び方やめてください」



捜査一課の間で、彼方は『ボンボン』なんて呼ばれている。

坊主とお坊ちゃんをかけたんだとかなんとか…課長が言っていた。



「暇な先輩にお願いです」

『暇じゃねえよ』

「2年前の…」

『聞いてねぇし』

「2年前の明共大学について、新聞の記事を探してもらえませんか。

あと同じ頃に起きた伊豆での事故も!」


『多っ!』


「早めにお願いします。
では」


『あっ、おい――…』



ぶちっ。


先輩刑事の返答を待たずに彼方は通話を切ったのであった。