「2年前、伊豆であるホテルが倒産し、悲観した経営者の妻が自殺しました」
五家宝凛は静かに語る。
「自殺場所は、妻がよく好んで通っていた崖だったので、事故、とされたんです」
消えそうな告白を、彼方が代わりに紡いだ。
「ホテルを倒産させたのも、自殺をもみ消して事故と処理させたのも、一条が裏から手を回したことだった。」
「そうよ」
「あなたは、ホテル経営者の宍戸永楽氏とその妻の娘ですね」
「―――…ええ」
宍戸は、悔しそうに奥歯を噛んで俯いていた。
その隣で三枝も同じような表情をする。
「共犯とまではいかなくとも、宍戸さんと三枝さんは彼女の犯行を知っていた。
宍戸さんはフロント奥のスタッフルームから一条を追い掛ける五家宝さんを見て。
そして三枝さんは、昼間レストランで、こっそり双葉さんの荷物から目薬をすり替えた五家宝さんを見て。」
宍戸は、顔を上げずに頷いた。
五家宝は確かに父を見る目で、その宍戸を見つめた。