あの日、先輩や上の人に話は通っていたから、結局お金は渡す他なく酷く後悔した。
惚れた弱みだろうが何だろうが、彼女から騙し取ることなんか出来ない。
貯金が減るのは自業自得だ。

「…そう、ですか」

「役に立てなくてゴメン」

「うち、親は放任主義なんです。お母さんが小さい時に亡くなって…お父さんは更に仕事ばかりになっちゃって。親にとって都合の良い子でいれば、お金だって自由になる。…お兄ちゃんは、そんなお父さんが嫌いだったんです。私はお兄ちゃんが大好きだった…でも、結局一人にされちゃった…」

彼女は泣きそうな声で、視線を落とした。
金持ちには金持ちの悩みがあるんだな、と初めて感じた。
ホストをしていた時なんか、上客の金持ちは大した悩みなんか無さそうだったから。
少し良い顔してれば、湯水の如く金を使う。
あの人達にも、悩みがあったのだろうか。

「大丈夫だよ、高科は良い奴だから帰ってくるって」

「…っ、そう…です、よね。…っ」

ぽたりと、地面に染みた涙。

何だか居たたまれなくて、思わず彼女を抱き締めた。

こんな妹を残して、何をしているんだか。


俺なら泣かせないのに。


いや、これ以上深入りしたら、泣かせてしまうかもしれないけれど。


別れ際に、彼女は言った。


「奈槻さんが羨ましいな。また会ってもらえますか?」


思わず面食らって、俺こんなだしホストだよ?って確認したら。

学校で自慢出来ます、って笑って去って行った。


ああ、どうしよう。


ますます君が好きになる。