「高科の妹って君?」

「え?はい…お兄ちゃんのお友達、ですか?」

「うん、まぁ、そんなとこ。アイツ急に来れなくなっちゃって、代わりに頼まれたんだよね」

「…はい、聞きました」

静かに俯いて、じっと足元を見る。
あまりメイクされていないのに、長い睫毛が印象的だった。
顔立ちも整っていて、幼さも残る中に最初に聴いた声の通り、凛とした綺麗さも持ち合わせていた。


「………………」


ああ、やっぱりダメか。
友達とは言ったものの、十万をポイとは預けられないよな。
鞄、奪って逃げるかなぁ。

何処かに期待していた淡い恋心も、すっかり海の藻屑の如く消え去ろうとしていた。

「じゃあ、これ」

「え?」

「お兄ちゃんに渡してもらえますか?」

鞄から取り出された封筒。
少しばかりの厚みは、諭吉が十人居るのだろう。

「え、いいの?」

「お兄ちゃん必要なんですよね?」

「あ、うん」

「じゃあ、責任持って渡してもらえますか?…えっと、」

困った風に見上げてくるから。

「ふ、古澤奈槻!」

思わず本名を名乗ってしまった。

「古澤、さん。私のことは莉子って呼んでください」

にっこりと笑った彼女を、堪らなく抱き締めたい衝動に駆られた。
これは非常にマズイ。
淡い恋心なんてものじゃない。


本気の、恋だ。


「俺も奈槻で良いよ」

「奈槻、さん」

「うん!」


聞きたいことは沢山あった。

お兄さんのこと、お金のこと、君のこと。

でも俺は何一つ語れない。

今も騙しているんだから。


ああ、こんなに切ない恋もあったんだ。


なんだか無償に泣きたくなった。