狭くはない一室のマンション。中には机と沢山の携帯電話。
そして数人の男達。閉めきった部屋の中で、煙草の煙が霞のように漂っていた。
目深に被った帽子を脱ぎ、コンビニで買ってきた昼飯を机に置いて、自らも煙草を手に取り換気扇の元へと移動する。

と、一人の男の会話が耳に入ってきた。

「あ、母さん?俺だけど…うん、ちょっと今風邪ひいててさ。実は今警察署で…」

男の隣には、もう一人の男がスタンバイしていて、やがて電話口に出て言葉巧みに喋り出す。

「落ち着いて下さい、相手の方も示談金で構わないという事ですので…はい、今から口座番号を言いますので…」

ああ、なんて人間は馬鹿なんだろう。
こんな些細なことに騙されて。
うちの親も騙されてくれるだろうか。
いや、兄貴ならともかく、俺じゃあな。

そんなくだらない事を考えながら、煙草を灰皿に押し付けた。

「あ、奈槻回収出来たか~?」

「はい、大丈夫でした」

島田先輩に言われ、鞄から紙袋に入った現金を手渡した。
所謂、俺は出し子と言われる役割だ。
半年前にこの危ない仕事へ誘われて、特に断る理由もないまま今に至る。

「上等上等~、そういや結城さんが奈槻もそろそろやってみろってさ。とりあえず俺と組もうぜ?」

結城さんは、ここの中心人物で皆を取り仕切ってる人。
きっと更に上の人も居るんだろうけど、知ろうとも思わないし組織のことには興味がない。首は突っ込まない方が身の為だろう。

「これがリストでー。とりあえず、ここ掛けてみっか」

「ちょ、俺で大丈夫なんすか?」

「こんなの適当で平気だって!引っ掛かる奴はホイホイ掛かるんだしよ」

片手の携帯電話に番号を打ち込み、先輩は俺の耳に押し付ける。
そして思い出したかのように、煙草を吸いに立ち上がった。

「ちょっ!」

数回コールした後、電話に出たのは若い女性の声。

『はい、高科です』

まだ幼い感じもするが、綺麗で凛としている声だった。

『?もしもし?』

「…あ、俺、俺だよ!」

思わず、いつも耳にしている台詞が口をついて出てしまった。