肩越しに振り返れば、刑事らしき男性に両脇を抱えられた結城さんが車に乗り込んでいるところだった。
走りたい衝動を抑えて、少し歩いた路地へ入り込んだ。

「…ヤバい」

一気に足元から崩れ落ちる。
呼吸も忘れていたようで、その場で何度も息を吸っては吐いた。
震える手で携帯を取りだし、履歴から先輩へと掛ける。

「…何で…出ないんだよっ」

耳にあてた携帯からは虚しくコール音だけが響く。
捕まった訳ではなさそうだし、だとしたら口を封じられたとか?
先輩は辞めたいと言っていた。

まさか…本当に…?

「…………っ、」

自分に起こっている出来事に、頭がついていかない。
あの場に自分が居たら、今頃は…。



「…え、奈槻さん?」

「っ!?」


見上げれば、驚いたような莉子ちゃんの顔があった。

「奈槻さんに似た人が見えたから…それより大丈夫ですか?顔真っ青ですよ!?」

慌てたようにしゃがみこみ、背中を擦られる。
その暖かい手に何故だか涙が溢れてきた。

本当に、俺は馬鹿だ。

軽い気持ちであんな仕事して。

こんな優しい彼女に嘘ついて。

挙げ句、逮捕されるところだった。

でも自分が悪いんだ。

全部、自分の責任。


…先輩は、大丈夫なんだろうか。